Gate21:ドイツからチェコへ入国
ハンブルクから乗り込んだ列車内では、ベルリン、ドレスデンと主な都市を通過してゆく度に、人の数がまばらになってきていた。
俺がいる6人がけのコンパートメントには、1人だけ。通路に出てみると、両脇のコンパートメントにも誰1人いないありさまだ。
てゆうかその隣にも、そのまた隣にも、誰もおらへん。
最終列車やからかな?
俺のコンパートメントから漏れる明かりだけが、
真っ暗な通路を細々と照らしていた。
国境を越えると、ドイツでのワーキングホリデーが終わる。
俺は今までの出来事を思い出しながら、
寂しさと、この先の金銭的な不安でいっぱいやった。
ふと窓の外を見ると、雪が積もっている。
なんでや!
ドイツでやっと少しは暖かくなってきてたのに。
なんで、また雪やねん。ドイツ寒いから逃げてきたのに、、、
もう寒いのとかええから。
そんな絶望を感じながら、国境を越え、
プラハに到着したのは夜の12時をちょうどまわった頃だった。
駅の中は、想像していたよりも薄暗く、汚く、空気が淀んでいた。
地下の待合席では、汚い身なりをした浮浪者達が、
もの珍しげにこちらの方をジロジロと見つめている。
雰囲気わるいなぁ。
プラハで一番でかい駅でこれか。
ドイツとちゃうなぁ。
まぁ、ドイツほど治安のいい国も珍しいけど。
こんなとこで寝たくないので、俺はしかたなく宿を探すことにした。
だが、ホステルや安宿を数件廻るも、返ってくる言葉は「Full」。
よう考えたら今日、土曜日やん。
しかも夜中やし。
プラハがこんな人気のある街とは、思わなかった。
マズイな、、、
宿が見つからないこともあったが、
気付かぬうちに治安がわるそうなところに足を踏み入れていた。
あたりは、壁がボロボロに崩れ、さっきまでいた旧市街の観光地とはまったく違う。
通りを歩く人間も、面白いように汚い。
深夜2時。なんでか知らんけど、
新しい土地に来たときには、いつも不安がつきまとう。
でも誰かが襲ってきても絶対逃げへんやろな。
こんな重いバックパック背負ってたら逃げる気せんわ。
走んのしんどいわ。
そんな妄想をしていると、
いつのまにか、前の宿で紹介された安宿が姿を現していた。
「すんませーん。」
疲れた声で受付のお婆さんと、値段交渉するが、高い。
全然高いやん。
しかも値下げしてくれへんし、
チェコ語しか喋らんし、
なんやねん!
もう探すんしんどいねん。
疲れきっていた俺は、受付の前にある汚いソファーに腰かけた。
電気も付いていない、真っ暗な空間で一服していると、
横に浮浪者のオバハンが寄って来た。
こいつ何処におってん?
よく見ると、地面に何人もの浮浪者が寝ている。
真横で、何も言わんと俺の顔ずっと見てるから、
「ハロー」と声をかけてみると、無視された。
まさか真横におって、無視されるとは思わんかったから、ビックリした。
それで俺が目を離したら、すぐまた俺の顔じっと見とる。
なんやねん?
もう一度、「ハロー」と声をかけるも、また顔をそむけよる。
しばらくしたら、また俺の顔見とる。
顔近いねん!
今度は、俺もずっとそいつの顔を見ることにした。
すると恐ろしいことに、そいつは全然瞬きせんと俺の顔見とる。
そして、感情のない眼。
一切の感情が入っていない眼を、俺は今まで生きてきて見たことがなかった。
たとえ様のないその眼が、めちゃめちゃ怖くなり、
俺は、一言「イモ」と、そいつに言い残してその場を離れた。
あんな眼をした人間がいること自体が俺には、ショックやった。
そして、いつまでも俺の脳裏からあの眼が離れなくなっていた。
俺の所持金あと1209ユーロ。
(約15万円)